育種価の性格

(1)育種価とは、親から子に伝えられる能力(遺伝的能力)の度合いを数値で示したものです。残念ながら、現在のところ真の遺伝的能力は誰にもわかりませんが、それを理論から、化学的に最も真の値に近い形で推定したものが育種価です。したがって、育種価は真の遺伝的能力の値ではなく、枝肉形質の育種価であれば、その固体の後代(子供)が何千頭という単位で肥育され、それらの枝肉成績を平均した値を表していると考えて下さい。

(2)育種価の値はゼロ「0」を基点にしたプラス「+」数値、マイナス「−」数値として表現します。私たちがよく知っている例をあげれば、学校のテストの偏差値のようなものです。偏差値では平均点を50としてあらわしますが、50としている部分が育種価の表現では0に置き換わっていると思ってください。プラス数値の場合は、数学表記上「+」と表示していません。育種価は数字が大きければ大きいほど、育種価が高い(能力が優れている)ことになりますが、枝肉形質6形質うち、皮下脂肪の厚さだけはマイナスの数字が大きいほど薄く、プラスの数字が大きいほど厚いということを示します。したがって、皮下脂肪の厚さの育種価はマイナスの数字が大きいほど好ましいといえます。

(3)ゼロ「0」基点とはその育種価が推定されたデータ上の集団(各肥育牛を遡った血縁固体の全体)の中での基礎世代、すなわち、枝肉形質に対して改良が加えられていない最初の世代(現在行われている育種価評価では、仮に昭和50年生まれの祖先牛が基礎世代に属していると考えられます)の育種価の平均(全平均という)をゼロに設定し、その値に対する偏差で示しています。ですから、基礎集団の育種価の平均、つまり、ぜん平均は各形質ごとに観測値単位の数値になっています。この値は、枝肉頭数が増加すると、それにつながる基礎世代を構成する固体も連動して増加していくので、枝肉データを追加して育種価評価を行うたびに多少変化します。しかし、何千、何万頭単位の枝肉データをもとにして育種価評価が行われている地域では基礎世代の構成が安定し、数値の変動がみられなくなってきます。

(4)育種価は老若男女共通のものさし
 育種価をもつもの同士は、同じ時に評価された育種価であれば種雄牛であれ、雌牛であれ、老牛であれ、若牛であれ比較することができます。かつて、それらの間で土俵を同じくして比較できるものさしはありませんでした。とくに雌牛には産肉能力を選ぶための精度の高いものさしがなく、育種価によってより確実に能力を振り分ける基準が得られたわけです。
 また、名を馳せた種雄牛に占有され、若く優秀な種雄牛が影をうすくし、ふと気付いたら時代遅れになってしまっていたというようなことは、改良の進度には大きな障害です。
老牛と若牛を同じ土俵で戦わせ、実力のある優秀な種雄牛がつねにスポットライトをあびている状態でいるのが理想です。一歩でも理想に近く、より多くの育種価判明牛から、より優秀な個体を選ぶものさしが育種価です。


:ワード:(枝肉形質6形質)
 枝肉の観察値(測定された成績、観測値)である枝肉重量、ロース芯面積、バラの厚さ、皮下脂肪の厚さ、歩留、脂肪交雑などを形質と呼び、この6つを総称して6形質と呼んでいます。


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