養豚
部門

<<養豚に夢を託して「脱サラ」>>

<<母豚4頭からの二人三脚>>

<<高島善則・芳子>>

 

.地域の概況

 


 本事例が所在する北条町は、鳥取県のほぼ中央に位置し、東は羽合町、西は大栄町、南は倉吉市に接し、北は広大な北条砂丘を経て日本海に面しています。

 地勢は平坦で、面積は20.92Ku 人口およそ8,000人の平地農村です。

 北条町の農業は、水田と砂丘畑を中心に、米・ふどう・葉たばこ・らっきょうが主な産物となっています。

 畜産経営者は少なく、現在ブロイラー飼養農家2戸(114,000羽)、養豚飼養農家2戸

(1,800頭)という状況となっています。

 因みに、昭和40年代では、およそ300戸の農家で5,000頭前後の豚が飼われていましたが、昭和60年代以降戸数、頭数とも激減し現在に至っています。

 

2.経営管理技術や特色ある取り組み

 


<養豚経営に夢を託して脱サラ>

 

「母豚4頭からの出発」

 

 経営者である高島さんは、農業とりわけ畜産とは全く縁のない都会育ちで、27才まで報道関係の会社でサラリーマンとして勤務していました。

しかし、自然の中で自由に仕事が出来、しかもサラリーマン感覚を取り入れた経営を実践したいとする氏の気持ちは強く、ついに昭和41年脱サラを決意するに至りました。

 大自然の中で自由な仕事として夢を託せるものとは。それは高島さんにとって養豚経営への参入でありました。

 ところが、非農業者である高島さんにとって用地の取得には困難を極めました。

そこで妻である芳子さん(北条町出身)の実家から用地を借りることで、土地問題を何とかクリアーし、中ヨークシャー種の母豚4頭を購入し、ここに奥さんとの二人三脚による経営はスタートすることとなりました。

以来養豚専業農家として、規模拡大を重ねながら今日の母豚100頭規模の一貫体系を確立し、着実な経営を歩んできました。

<規模拡大は儲けてから>

 

 借金は嫌い

 

 高島さんの経営理念の一つに、借金は作らないということがあります。

 経営を安定させるため、無理な資本投資を避け、自己資本(儲け)を充当することで規模拡大を図ってきたことが、その後の経営安定に大きく寄与したことはいうまでもありません。

昭和41年、母豚4頭の子取り経営でスタートしてから昭和63年の間、5回にわたって規模拡大(現在は100頭一貫体系)のため、豚舎の増改築を行ってきました。

その投資額のうち借入金は農業近代化資金2回借りただけであり、残りは全て自己資金(儲け)を充当し、経営の安定を図ってきました。

その後においても、畜舎の改修、器材の更新及び購入等必要経費は全て養豚収入を充て借入金に依存しない堅実な経営を営んできています。

 

<儲けの秘訣は繁殖成績の向上>

 

「飼養品種の統一」「母豚の計画的更新(6産)」「更新豚は自家産」

 

安定した豚肉の生産には、品種の統一を図ることが必要であり、このため肉豚をLWD種とする生産体系がとられています。

 母豚は6産で計画的に更新することとし、その更新用母豚は全て自家育成することで、計画的な育成、無駄のない更新を可能としています。

 また、更新用母豚の作出に当たっては、防疫面も考慮にいれ、基礎豚(親豚)の導入先を限定するとともに、繁殖成績にバラツキが出ないよう配慮されています。

さらに、2産続けて産子数が10頭を下回った母豚については、即廃用するなど繁殖成績の向上には、特に気を配っています。

 

<効率的な管理の徹底(ウィークリー養豚の実現)>

 

 毎日の管理を一週間のサイクルで体系化し、作業を単純化しながら効率的な管理に努めています。

 1日の作業時間は、6時間以内

・一週間の作業体系

 日曜日――午前休日 作業予備日

 月曜日――子豚離乳 出荷豚体重測定

 火曜日――分娩 作業予備日

 水曜日――肉豚出荷

 木曜日――午前休日 出荷用肉豚移動

 金曜日――交配 作業予備日

 土曜日――交配

 

<母豚の集約管理>

 

 母豚5頭を1グループとして、分娩、離乳、発情、交配の同期化を図ることで作業の単純化、効率化に心がけています。

 

 分娩については、基本的には無看護分娩であるが、分娩誘発剤を応用することで、昼間分娩を促し、分娩時の事故率の低下、介助作業の単純化を実現しています。

 交配についても、離乳と同時に発情誘起剤を応用し、集中的に交配出来るよう配慮しています。

 

<省力管理のための工夫>

 

日常の管理は給餌と除ふん作業であるが、自動給餌機の導入、スクレーパーの導入、堆積床ハウス豚舎の建設など、省力管理に対する工夫を凝らしたことによって作業時間は大幅に短縮され、夫婦二人で2時間程度の実労働となっています。

このように管理作業の体系化によって1日の労働時間を6時間以内に抑え、日曜日と木曜日の午前中は休日に充てるなど、ゆとりある経営を実践しています。

そしてサラリーマン並の労働で養豚経営を立派に維持し、経営の豊かさによって日々の生活をエンジョイしています。

 

<ふん尿処理と衛生対策に対する工夫>

 

堆積床ハウス豚舎を設置しているが、氏は、古くから「ヒノキチオール」の殺菌作用に着目し、オガクズの消臭効果を加味し、国産ヒノキのオガクズを限定して使用しています。

また、発酵菌を飼料添加することで、臭いの軽減と発酵を促進させるなど、環境にも配慮した管理を行っています。

 

<常に安定した収益の確保>

 

高島さんの経営実績を見るとき、生産性が特に際だって高い数字とはなっていないにも関わらず、常に安定した収益を維持しています。

これは、投資は自己資金で、借金はしない。また投資額は出来るだけ安くとする氏の経営方針によって減価償却費を低く抑えていることが大きな要素であると同時に、購買者の好む豚を出荷することで枝肉を有利に販売していること(重量超過により格落ちで上物率は決してよくないが、枝肉販売単価は市場平均より30円程度高い)、さらに借入金がなく償還の必要がないことによるところが大きく、毎年20%を超える安定した所得率を確保しています。

 


 

.経営・活動の内容


1)労働力の構成


平成16年6月現在

 

続柄

年齢

農業従事日数

年   間

総労働時間

労賃単価

備  考

(作業分担等)

 

うち畜産部門

 

本 人

65

365

365

,190

 

二人で共同作業

 

63

250

250

,500

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨時雇

のべ人日

128人

 

768

8,000

/

 作業補助

労働力

合 計

 

3人

 

743日

 

743日

4,458

時間

 

 


2)収入等の状況


  平成14年 1月〜平成1412月 

 

 

 

品目名

作付面積

飼養頭数

販売量

販売額・

収 入

構成比

農業生産部門収入

畜 産

 

 

 

@千円

B%

養  豚

母豚84.7

肉豚1,712

候補豚2

63,326

96.1

 

 

 

 

 

 

 

 

耕種

 

 

 

 

 

 

 

 

林産

 

 

 

 

 

 

 

 

加工・販売

部門収入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

農 外

収 入

奨励金、補てん金

 

 

2,224

3.3

公的年金

 

 

370

0.6

合 計

 

 

 

65,921

100.0

 

 
3)土地所有と利用状況



 

 実 面 積

備 考

 

うち借地

うち畜産利用地面積

耕地

 

78

 

樹園地

 

78

 

耕地以外

牧草地

 

野草地

 

 

 

 

畜舎・運動場

44

11

 

その他

 

 

 

6

 

6

 

共同利用地

利用戸数:

 


4)家畜の飼養状況


 単位:頭(羽)

品種・区分

母 豚

育 成

子 豚

肉 豚

期 首

88

7

7

617

461

期 末

86

13

9

474

457

平 均

84.7

13.8

7.9

651

408

年 間 出 荷

頭(羽)数

 

2

 

 

1,712

 


(5)施設等の所有・利用状況

 

 

 

棟  数

面積数量

台  数

 

所 有

区 分

構  造

資  材

形式能力

 

(利用状況等)

取得年

 

 

 

 

 

肥育豚舎A

肥育豚舎B

離乳豚舎

母豚豚舎

分娩豚舎

豚舎(改修)

豚舎(改修)

豚舎(改修)

育成豚舎(修理)

1棟

1棟

1棟

1棟

1棟

1978

1979

1979

1979

1978

2001

2000

2002

2001

個人

個人

個人

個人

個人

個人

個人

個人

個人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉庫

井戸

水中ポンプ

自動給餌機

プロッター

1棟

1棟

1台

一式

一式

 

1985

1997

2001

2001

2002

個人

個人

個人

個人

個人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽トラック

ミニバックホー

 

 

 

 

 

1台

1台

 

 

 

 

 

2001

2001

 

 

 

 

 

個人

個人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 Aリース・賃借物件

 

 

 

棟  数

面積数量

台  数

 

所 有

区 分

構  造

資  材

形式能力

 

(利用状況等)

取得年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堆肥舎

 

 

 

1棟 200u

 

 

 

 

2002

 

 

 

 

個人

 

 

コンクリート

木造畜波トタン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


(6)経営の推移

 


 

年 次

作目構成

頭(羽)数

経営および活動の推移

S41

 

 43

 

 

 47

 

53〜

 54

 

 

 

 60

 

 

 63

養 豚

4頭

 

10

 

 

20

 

60

 

 

 

 

80

 

 

 100

 養豚(専業)経営開始  子取り経営

 

 肥育豚房(14豚房)増築し一貫経営に転換

  農業近代化資金を借入れ

  

 廃業した人の施設、土地を買い取り規模拡大

 

 土地40アール買収し規模拡大

 母豚舎、肥育豚舎、子豚舎建設

  農業近代化資金借入れ

  スクレーパー設置

 

 旧母豚舎の改造(ストール化)で規模拡大

肉豚用ハウス豚舎10棟設置

 

 母豚舎改造(ストール化)で規模拡大

  子豚用ハウス豚舎3棟設置

 

 


(7)自給飼料の生産と利用状況


  

 

4.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策

 
(1)家畜排せつ物の処理方法


ふん尿の処理は、一部を分離処理を行なっています。

固形分は、基本的に一次処理を堆肥舎(24平方)で一週間程度堆積した後、二次発酵施設(200平方)で切り返しを行う堆積発行方式をとっています。

液の部分の処理は、 汚水の出る場所(母豚舎、分娩豚舎、子豚豚舎及び出荷用肉豚舎)であるが、この内分娩豚舎、子豚豚舎には一部オガクズを使用して、排出量を抑えています。

まず貯留槽(4立方x3基)に流入し、ポンプアップして曝気可能な原尿槽(10立方)通り、更に、4連の曝気槽を経て浄化した上澄み液を最終的には土地還元(自己所有地)されています。

1日の処理量は1.5立方メートル以下と少なく、現施設で十分処理可能です。

発酵床豚舎については、糞尿混合となっている。これらの施設は豚が移動または出荷され、空になった段階で発酵床をすきとり、二次発酵施設で堆積発酵しています。

発酵した堆肥は、周辺農家へ無償提供しているが、貴重な有機質資源として地域の土つくりに利用され、いままで堆肥が滞貨したことはなく全量有効に活用されています。

 

 
(2)家畜排せつ物の利活用


 @固形分

内  容

割合(%)

品質等(堆肥化に要する期間等)

販  売

 

 

交  換

 

 

無償譲渡

100

  4カ月堆積発酵

自家利用

 

 

そ の 他

 

 

 

 A液体分

内  容

割合(%)

浄化の程度等

土地還元

100

  

放  流

 

 

 浄 水

 

 

そ の 他

 

 

 

 
(3)処理・利用のフロー図


 

 
(4)評価と課題

 

日常の管理の軽減を含め、できるだけ手間のかからない豚舎の建設、機械の導入をはじめ、オガクズや発酵菌を利用して消臭効果、発酵促進を試みるなど環境に配慮した工夫が見られます。

処理に関しては、ふん尿とも問題なく処理され、とりわけ堆肥については、貴重な有機質資源として地域の土つくりのために近隣農家へ無償配布するなど、地域との融和を図り共存できる体制の構築に配慮している姿がうかがえます。

ふん尿処理に関し特に課題はないと思われるが、近い将来豚舎周辺で宅地造成が行われ住宅の建設があった場合(現在のところその計画はない)、豚舎からの臭いをいかに軽減するかといったことが想定されます。

 

 
(5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み



以前、豚舎周辺に樹木の植栽を実施したが、砂丘地であることから水分不足をきたし、枯死した経過があり、現在はこれといった取り組みはしていません。

 しかし、畜産農家戸数の少なくなった現在、畜舎周辺の環境美化は地域住民への畜産経営に対する理解を得るという観点からも、避けて通れない課題であると認識しており、今後は省力管理でうまれた時間を環境美化に向けたいと考えられています。

  

5.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み

 


 

  現在子供さん3人は独立していて、養豚経営への参画は流動的です。

 

6.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容

 



善則さんは、平成5年から13年まで、鳥取県養豚協会(平成13年4月鳥取県畜産推進機構に統合)監事として、協会の運営・発展並びに鳥取県の養豚振興に寄与されています。

地元にあっては、町の民生委員として5年間(昭和55〜60年)、田井集落の公民館長として2年間就任し、地域のリーダーとして貢献されています。

芳子さんは、平成10年当時、養豚経営に携わる女性を対象とした組織作りに取り組むことしてその実現に努力し、平成12年の発足へと導かれました。

自ら会の代表を務め、現在会員は20名を数えるに至り年数回の会合を重ねるまでに発展しています。

また、県農林水産技術協議会中小家畜部会委員を平成3年以降現在までつとめ、試験研究課題に対する意見具申を行うなど活躍中です。

一方地元にあっては、町民生委員(2年)、町婦人会役員(昭和45年から現在)食生活推進委員(昭和45年から現在)、さらに日赤奉仕団、厚生保護婦人部委員を現在も務めるなど、幅広い分野で地域の発展に寄与されています。

 

 

7.今後の目指す方向性と課題

 


 

善則さんは、70才定年を目途に経営を存続したいと考えられています。

 技術的にはある程度満足できる域に達したとの思いはあるが、現段階では後継者がいないので地域の後継者育成という観点から、若者を中心としたグループ化、養豚女性の会等を通じて、今まで培ってきたノウハウの伝達を主眼に門戸を広く開け地域に貢献したいと考えられています。

 幸い妻が養豚女性の会の代表であることもあり、特に、女性の経営への参画が増えると予想される今日、経営に参加する女性の地位向上と、経営感覚の向上に力を入れていきたい。

 なお、後継者については、身内、他人を問わず自分の経営を継承して欲しいとの希望は強いものがあり、以前関係機関を通じた後継者探し、養豚研修生を受け入れての後継者育成を試みたが、いずれも成就するまでに至りませんでした。

 

 

8.事例の特徴や活動を示す写真

 


 

  

経営者夫妻                               母豚舎

  

管理舎                              分娩舎内部(2頭式)

  

発酵床ハウス豚舎                          肥育豚飼養状況

  

移動で空になったハウス豚舎                        堆肥舎

  

堆肥舎内部(調整直後)                 堆肥舎内部(出庫前の堆肥)

  

汚水処理施設                       曝気状況