酪農
部門

<<水田地帯での酪農経営の歩み>>

 

<<中原睦夫・裕子>>

 

.地域の概況

 



鳥取県の東部に位置し平地農業地帯であり、気高町の総面積は34ku、人口およそ10,00人、農地に占める水田割合が81%という水田地帯であります。

地域の主産業は旅館業(温泉)が中心で、「温泉と貝がら節と海のまちけたか」のキャッチフレーズで町おこしをしています。

農業は、米が農産物産出額6億円と一番多く以下は、生乳1億円、畑作(ねぎ4千万円、葉タバコ4億円)となっています。

世帯数2,915世帯、農家数491戸、畜産農家数10戸(肉用牛3戸21頭、酪農5戸187頭、豚2戸923頭)で稲作が中心の地域であり、酪農家は昭和30年代後半は、60戸あまりあったが年々減少し、現在5戸となっています。 

 

2.経営管理技術や特色ある取り組み

 


<中原さんの経営理念>

 

「儲けより生きがい」「周りとの共生」

 

中原さんが酪農経営をするに当たっては、地域との共生を第一に考え、経営は生計を得る手段として、しかも生きがいとして位置づけられており、無理な投資は極力避け堅実な経営を維持することを基本とされています。

 その発展の過程は、中原さんの経営に対する軌跡がみてとることができます。

 

・最初の経営移転

高校在学中の昭和38年、子牛1頭を購入して酪農経営に参入、昭和40年この牛が分娩し高校に通いながら搾乳した経験を持っています。

その後、飼養規模が5頭へと増頭したことと、この地で経営を維持するには周辺住民への配慮を欠かすことはできないという理由から、集落外の自己所有地へ移転を決意し、24頭規模の牛舎を建設し移転しました。

・2回目の経営移転

昭和50年代初頭、地区のほ場整備事業への取り組みが提起されました。

地区内には土壌条件の悪い水田としては適さないが土地が存在し、その処分に苦慮していました。

中原さんは土地改良区の理事として、また集落の農事実行組合長としてこの土地をほ場整備除外地とすることで解決策を見いだし、自ら所有する水田と交換する形で土地を確保し、2回目の移転を行い成牛48頭規模の牛舎を建築しました。

その後、平成11年牛舎をフリーストール牛舎に改造し、搾乳は低コストアブレスト型ミルキングパーラーを新設し現在に至っています。

なお、2回の移転に要した資金(借入金)はすでに償還済(繰上償還)であり堅実な経営を維持しています。

 

・有機センターとコントラクター組合

 平成11年、山東地区の畜産農家の家畜ふん尿処理と地域全体の土づくりを図ることを目的に「やまひがし有機センター」が建設されました。

こうして生産された堆肥は、地域内外に供給されているが、中心は地域内の水田(畑地は少ない)利用です。

平成12年には、水田での堆肥の利用拡大と、地域内自給飼料の確保を目的とした転作田での飼料用イネの栽培に注目し、栽培を検討し始めました。

平成13年には氏が中心になり栽培から収穫・利用まで行なった。

飼料イネの品質の良さを実感し、平成14年にはコントラクターを組織して15haの面積で本格的にスタートしました。

この取り組みは堆肥の有効利用と粗飼料の確保という効果をもたらしたばかりでなく、土地の保全といった面で、地域農業に貢献しています。

中原さんはこれらの取り組みに対し中心的な役割を果たし自ら有機センター協議会長、コントラクター組合長として指導力を発揮しています。

 このように、本格的に酪農経営へ参入してから今日まで常に地域との関係、畜産の仲間との関係を重視した経営姿勢に終始し、自らは堅実な経営を実践しています。

 

<堅実経営への努力>

・パーラーの自力施行

 過去2回の移転に伴う資金はすでに償還済みであったことから、平成11年、現有施設を改造することで規模拡大を図ることを計画し、検討の結果フリーストール、パーラー方式を採用することとなりました。

 その施行に当たっては、出来るだけコストをかけないで建設することとし、特にパーラーの導入については、地元鉄工所と頻繁にやり取りしながら酪農家の発想によるパーラーを自力施行し、シンプルで低コストなものを作りあげました。

 

・粗飼料の確保

 従来から粗飼料の確保には力を入れてきたが、水田地帯であるといった理由から土地の確保には苦労がありました。

そこで、平成13年から転作田を利用した飼料用イネの栽培に取り組み現在15ヘクタールの水田でその栽培をしている。収穫された飼料用イネは、地元の飼料生産組合(コントラクター組織)を通して供給を受け自給率の向上に努めています。

 

<安定した収入の確保>

平成15年度の経営実績をみると、経産牛1頭当たりの年間搾乳量は、分娩後の予期せぬ事故(6頭)があり8,500s程度(14年は9,100s)と高いレベルとは言い難いですが、毎年の収入は常に20%以上の所得率を維持し安定しています。

このことは、施設投資を抑えていることと、粗飼料の確保に努めていることによるものであります。

 

<環境への配慮>

・堆肥の有効活用

以前、固形物は堆積発酵後飼料畑や水田に土地還元し、液状物は簡単な曝気後飼料畑等へ還元していた。現在は堆肥発酵舎(約500u)で撹拌醗酵を行い製品は戻し堆肥として牛舎の敷料に再利用しています。

このことで製品として外へ出る堆肥はありません。

 なお、周辺の方々が堆肥を求めて来る場合は無償で求めに応じており周辺農家への配慮が伺えます

 

・新しい取り組み

 ゴミの減量化が叫ばれる今日、地域の事務所から出る不用な書類等を細断し(ペーパーシュレッダーダスト)育成牛舎、子牛ハッチに敷料として有効活用しています。

 この取り組みは、息子の学さんが進めているが、この取り組みを平成15年2月の県内農業青年会議連絡協議会冬のつどい発表し最優秀賞を受賞している他、鳥取県庁ISO14001の取り組み評価でも15年12月に最優秀賞と評価されました。


 

.経営・活動の内容


1)労働力の構成


 平成16年6月現在

 

続柄

年齢

農業従事日数

年   間

総労働時間

労賃単価

備  考

(作業分担等)

 

うち畜産部門

 

本 人

56

341

341

2,083

1,200

全 般

 

54

341

341

2,083

1,200

  〃

 

息子

27

341

341

2,083

1,200

  〃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨時雇

のべ人日

72

 

288

1,100

/

ヘルパー

労働力

合 計

 

3人

1,023

1,023

6,537

時間

 


2)収入等の状況


 平成15年1月〜平成15年12月 

 

 

品目名

作付面積

飼養頭数

販売量

販売額・

収 入

構成比

 

 

 

@千円

B%

酪 農

経産牛59.9

牛乳506,794kg 

子牛38

51,064

94

 

 

 

 

奨励金、受取利息

 

 

2,932

6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加工・販売

部門収入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

農 外

収 入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合 計

 

 

 

53,997

100.0

 
3)土地所有と利用状況

 

 実 面 積

備 考

 

うち借地

うち畜産利用地面積

 

700

200

700

 

樹園地

 

 

牧草地

 

野草地

 

 

 

 

畜舎・運動場

48

48

 

その他

 

 

 

 

 

共同利用地

利用戸数:


4)家畜の飼養状況

 

 単位:頭(羽)

品種・区分

乳牛・経産牛

乳牛・育成牛

 

 

 

期 首

62頭

23頭

 

 

 

期 末

60頭

26頭

 

 

 

平 均

59.9頭

24.9頭

 

 

 

年 間 出 荷

頭(羽)数

子牛 23頭

廃牛 18頭

 

 

 

 


(5)施設等の所有・利用状況


 

種 類

棟   数

面積数量

台   数

取得年

所 有

区 分

構   造

資   材

形式能力

備 考

(利用状況等)

牛舎

1棟

1981

個人

 

 

牛舎増築

1棟

2000

 

 

 

飼料置場

1棟

1981

個人

 

 

管理棟

1棟

1981

 

 

 

機械置場

1棟

1982

 

 

サイロ屋根

1981

 

 

 

機械置場増設

1983

 

 

 

堆肥舎前コンクリート

1988

 

 

 

FRPサイロ

2

1979

 

 

 

FRPサイロ

2

1980

 

 

 

尿タンク

2

1981

 

 

 

運動場

1

1983

 

 

 

牛舎前花壇

1

1995

 

 

 

FRP飼槽コート

1

1999

 

 

 

飼料庫

153u

2002

 

 

 

バンカーサイロ

2

2003

 

 

 

ハッチ

 

1990

 

 

 

FRPサイロ用パイプ

1式

1991

 

 

 

牛ベットマット

52

1999

 

 

コーンハーベスター

1台

1994

個人

 

 

 

コンプリートミキサー

1台

1994

 

 

フォレージハーベスター

1台

1993

 

 

 

ミルカージャー

1個

1994

 

 

 

トラクター

1台

1996

 

 

 

FRPダンプ荷台

1998

 

 

 

プレートクーラー

1台

1999

 

 

 

エアーシリンダー

1式

1999

 

 

 

デスクトップパソコン

1

1999

 

 

 

真空ポンプ

1台

1999

 

 

 

2tダンプ

1台

1989

 

 

 

軽トラック

1台

1993

 

 

 

除雪グレーダー

1個

1987

 

 

 

ミルカーユニット

4

1988

 

 

 

プラウ

1台

1989

 

 

 

サブソイラー

1

1989

 

 

 

トラクター

1台

1989

 

 

 

ピックハーベスター

1台

1990

 

 

 

バキュームカー

1台

1990

 

 

 

モアコンデショナー

1台

1990

 

 

 

トラクター

1台

1991

 

 

 

ワゴン

1台

1991

 

 

 

ワゴン用コンベア

1台

1991

 

 

 

FRPワゴン

1台

1991

 

 

 

FRPワゴン

1台

1991

 

 

 

ブロア

1台

1991

 

 

 

尿ポンプ

1台

1991

 

 

 

ミルカーパイプ増設

1式

1991

 

 

 

カッター

1台

1993

 

 

 

コンプリートミキサー

1台

1993

 

 

 

ハーベスター

1台

1993

 

 

 

TMRミミサー

1台

2002

 

 

 

ロールグラブ

1個

2002

 

 

 

フォークリフト

1台

2003

 

 

 

ベルトコンベアー

1台

2003

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aリース・賃借物件

種 類

棟   数

面積数量

台   数

取得年

所 有

区 分

構   造

資   材

形式能力

備 考

(利用状況等)

 

 

 

 

 

 

堆肥舎

1棟

2004

 

個人

ロータリー攪拌、鉄骨

 

 

 

 

 

 

 

 


(6)経営の推移



年 次

作目構成

頭(羽)数

経営および活動の推移

S38

 

40

 

44

 

 

 56

 

H11

 

 

 13

酪 農

1 頭

 

  1 頭

 

24 頭

 

 

 48 頭

 

 53 頭

 

 

 

高校在学中に1頭の乳子牛を導入

 

高校3年時に牛が分娩、高校に通いながらの搾乳

 

鉄骨の成牛24頭牛舎を建設

 近代化資金を借入

 

牛舎移転、成牛48頭牛舎を建設

 

牛舎をフリーストール、ミルキングパーラーに改造

県農業大学校を卒業後、長男(学)就農

 

飼料用イネ栽培、利用に取り組む

 


(7)自給飼料の生産と利用状況


 飼料作物の生産状況(平成15年1月〜15年12月)

使用

区分

飼料の

作付体系

地目

面 積(a)

所有

区分

総収量

(t)

10a当たり

年間収量

t

主 な

利用形態

(採草の場合)

実面積

のべ

面積

採草

 

 

 

 

とうもろこし(のべ700a

   +

イタリアンライグラス

(のべ700a

 

 

 

 

 

 

 

 

 

500a

200a

 

 

 

 

 

500a

200a

500a

200a

 

自己

借地

自己

借地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイレージ

 

乾草

 

 

 

 

 

 

4.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策

 
(1)家畜排せつ物の処理方法


 

ふん尿処理は、混合処理をおこないます。

牛舎よりローダーで搬出(敷料にはオガクズと戻し堆肥を利用)、水分調整後ローダーでロータリー攪拌式の堆肥舎に運び堆肥化を行なう。出来た堆肥は戻し堆肥として牛舎ベット、ストールの敷料として利用します。

育成牛舎、子牛ハッチでは、平成14年より役場等から供給されるペーパーシュレッダーダスト(以下PSD)を敷料として利用しています。(週1回追加し、衛生的で子牛の腹冷え防止などの効果があります。)

 

 
(2)家畜排せつ物の利活用


 

 @固形分

内  容

割合(%)

品質等(堆肥化に要する期間等)

販  売

 

 

交  換

 

 

無償譲渡

 

  

自家利用

100

戻し堆肥として利用。

そ の 他

 

 

 A液体分

内  容

割合(%)

浄化の程度等

土地還元

 

  

放  流

 

 

洗 浄 水

 

 

そ の 他

 

 

 

 

 
(3)処理・利用のフロー図


 

 

 

 
(4)評価と課題


 

 施設をフリーストール方式としたことにより、尿を含めて敷料に吸着する方法がとられています。

処理の終わった堆肥は戻し堆肥として敷き料に全量利用され、現在は外へ搬出する必要はあいません。

また、育成牛舎にはペーパーシュレッダーダストを活用するなど環境に配慮した対策も試みされています。

さらに、発酵堆肥については求めに応じて近隣農家へ無償配布するなど地域との融和を図り共生できる体制の構築に向けた努力がみられます。

ふん尿処理ではないが、パーラー室から出る洗浄水について、現在は尿溜を利用しバキュームカーによって土地還元方式を採っており、特に問題はありませんが、将来的には浄化処理を検討する必要が想定されています。

 

 

 
(5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み


 

平成6年に牛舎前に花壇を設置されています。

 

  

5.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み

 


 

長男の学さんが、平成11年に就農し経営に参加されています。

後継者は規模拡大の意志を持っています。

 

 

 

6.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容

 


 

中原さんは、酪農経営を継続することで生活基盤の確保を図ることはもちろんであるが、地域との調和を図りながら共に発展することが基本であるとの姿勢を一貫して持ち続けてきました。

昭和50年、瑞穂南部土地改良区理事(現在は理事長6年目)に就任して、ほ場整備事業の実現に努力してきたのをはじめ、数々の役職にあり、酪農のみならず地域のリーダーとして信望も厚くその発展に大きく貢献しています。

主なものをあげると、地区農事実行組合長、地区公民館長、東部酪農ヘルパー組合長、有機センター協議会長山東コントラクター組合代表者、山東酪農部長等々です。

有機センターの設置にあたっては、当初から町・農協等に働きかけるとともに、畜産農家の代表として生産者利用協議会を設置し、自ら代表となり畜産農家側の調整を行なってきました。

 有機センター稼動後、乳牛中心の糞のため初期の水分調整に苦戦してきたが、平成15年には氏が中心となって改善対策を検討し、個人乾燥施設の設置・十分な水分調整の実施と予備堆積・水分調整材のストックヤードの新設などの改善対策を講じて発酵状態も改善されています。

尚、有機センターの堆肥は平成13年から始まった鳥取県堆肥共励会で3年連続優秀賞を受賞しています。

コントラクター組織については、平成12年に水田での堆肥の利用拡大と、地域内自給飼料の確保を目的とした転作田での飼料用イネの栽培に注目し、山東地区での栽培を検討し始めました。

平成13年に氏が中心になり栽培から収穫・利用まで行い、飼料イネの品質の良さを実感し、平成14年にコントラクターを組織して15haの面積で本格的にスタートしました。

この取り組みは堆肥の有効利用と粗飼料の確保という効果をもたらしたばかりでなく、土地の保全といった面で、地域農業に貢献しています。

見落としてならないのは、出来上がった組織の上に立つのではなく設立の当初から参画し、その中心的役割を果たし、設立された組織が現在も有効に活用している点です。 

 

7.今後の目指す方向性と課題

 


 

一定の経営基盤は確立出来たと考えられます。

幸い後継者もあり、今後は後継者への経営の委譲を念頭にやっていきたいと考えられています。

今まで自分の理念で経営に携わってきました。

従って、後継者に対しては自分がそうであった様に自分の経営スタイルでやってくれればいいと思っています。

それに対してとやかくいうつもりはなく、見守ってやりたいというのが基本的な考え方であります。

 

8.事例の特徴や活動を示す写真

 


 <<事例の特徴や活動を示す写真>> 

   

牛舎全景                      経営主の中原睦夫さん

   

    手作の細霧装置(断続運転)           フリーストールに改造された牛舎内部

  

     手作りパーラー8頭搾乳              経営効率を考えた工夫(段差)

  

         堆肥舎(一時処理、水分調整)          堆肥舎

  

         堆肥舎内部                戻し堆肥にオガクズを混ぜて牛舎へ

  

 ペーパーシュレッダーダストを敷料に利用     飼料用イネのラップサイレージ