酪農
部門

母子(おやこ)で築く笑顔の酪農経営

 

前田洋子

 

.経営管理技術と特色ある取組み

 


(1) パソコンによる経営管理でゆとりある酪農経営の実現を図る。

保母(現保育士)から転身を図り、父の酪農を引継ぎその経営状況が不明確で経営実態 えきれていないこ将来展望が描けないことを痛感し、普及センター、町農業青色申告友の会の指導を受け、複式簿記に取組み、後にパソコンで処理するに至っている。

 このことが、長男の就農に際し規模拡大計画に経営財務内容の分析が基礎数値として活かされ、省力化、環境対策を加味した投資、資金繰り計画の適確な判断材料となり、経営的、労力的に無理のないゆとりある酪農経営の実現となっている。

 (平成13年第8回農業簿記利優良経営表彰 優秀賞受賞)

 

(2)循環型農業の実践により環境対策に万全を期している。

 規模拡大に際し最も悩んだ1つが環境対策であった。平成8年頃から飼料自給率向上のため、借地による飼料作付面積の拡大を図っており、また芝の改植時期に併せて飼料畑の拡大を行い堆肥は全量自家圃場還元する体制はできていたが、規模拡大し、後継者が安定した酪農経営を継続するには、汚水処理が最大のポイントになると考え、まず、堆肥舎汚水処理施設の投資を優先し、牛舎は増築することとした。

 このことが、60頭搾乳規模でつなぎ方式を選択した結果となった。

 堆肥舎、汚水処理施設の整備で臭いもなく、汚水は全放流されないので、環境対策ほ万全である。

 また、沈殿槽の堆積物は独自に考案した二次処理施設で処理し、処理水は近隣の芝に散布し芝の品質向上にも寄与している。

 

(3)後継者対策

 経営者の就農のきっかけは、長男が中学入学時に「僕は将来酪農をするから、その時はお母さんも手伝って」という言葉に心打たれて勤めを辞める決心をした。

 この強い信念が酪農には全くの素人が、父や地域のリーダーの指導を受けながら、今では地域のリーダーとして活躍する一方後継者の育成に当っている。

 母と息子で第1段階の規模拡大は達成されたが、これには家族経営協定を締結し、母はパソコンによる経営管理、息子は生産管理を分担することとしており、次なる目標に向かって既にスタートしている。

 

2.経営の概要と実績


(1)労働力の構成


平成14年12月現在

区 分

続柄

年令

農業従事日数

年間

労賃単価

備  考

 

うち畜産部門

総労働時間

(作業分担等)

家 族

本人

50

350

300

2,200

1,200

全般

 

長男

26

350

340

2,200

1,200

全般

 

78

200

100

200

1,200

補助・芝

 

80

200

100

200

1,200

補助・芝

常 雇

 

 

 

 

 

 

 

臨時雇

のベ日人                    人

 

 

 

労働力

合 計

 

4人

 

1,100日

 

840日

5,060

時間

 

 

 

 

 


(2)収入等の状況

 

平成14年1月〜12月

 

 

 

品目名

作付面積

飼養頭数

販売量

収 入

構成比

農業生産部門収入

畜 産

酪農

63

牛乳560t、子牛40

B  98%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耕種

100

 

2%

 

 

 

林産

 

 

 

 

 

 

加工・販売

部門収入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

農 外

収 入

 

 

 

 

 

 

合 計

 

 

 

100%

 

 


(3)土地所有と利用状況


 

区 分

 

実面積

備考

うち借地

うち畜産利用地面積

 

 

 

 

利用

 

227a

137a

172a

 飼料

916a

640a

886a

 〃

樹園地

a

 

 

 

1,143a

777a

1,058a

 

牧草地

a

 

 

 

野草地

a

 

 

 

 

a

 

 

 

a

 

 

 

畜舎・運動場

16a

 

16a

 

山 林

50a

 

 

 

原 野

a

 

 

 

50a

 

 

 

共同利用地

a

 

 

利用戸数:


(4)家畜の飼養・出荷状況


 <<家畜の飼養・出荷状況>>

単位:頭

品 種

区 分

乳 牛

期 首

62頭

期 末

67頭

平 均

64.4頭

年間出荷頭数

子牛  40頭

廃用牛 13頭

 


(5)施設等の所有・利用状況


 <<施設等の所有・利用状況>> 

種 類

構   造

資   材

形式能力

棟   数

面積数量

台   数

取  得

所  有

区  分

備  考

(利用状況等)

金額(円)

 

 

牛舎

育成牛舎

成牛舎

育成牛舎

木造平屋

スレート

1棟

1棟

1棟

1棟

S53.7

S56.10

H10.1

H10.11

13,000,000

1,155,000

19,505,000

11,014,000

個人

個人

個人

個人

 

 

わら小屋

 

糞尿汚水浄化施設

堆肥舎

木造平屋

スレート

連続式活性汚泥法

1棟

 

1棟

1棟

S55.6

 

H13.5

H13.3

973,000

 

13,170,000

 

個人

 

個人

リース

 

 

 

 

 

ダンプ

軽トラック

バーンクリーナー

パイプラインミルカー

自動給餌器

バルククーラー

トラクター

2t

 

 

 

 

2,700l

85sp

1台

1台

1台

1台

1台

1台

1台

H11.1

H13.10

H9.12

H10.2

H10.3

H11.9

H13.12

2,440,000

900,000

2,000,000

5,460,000

4,005,000

2,835,000

5,250,000

個人

個人

個人

個人

個人

個人

個人

 

 


(6)経営の推移

 


 

年 次

作目構成

頭数

経営および活動の推移

S60

H元

H8

H9

H10

 

H11

H12

H13

H15

酪農・芝

 

 

成牛32頭

 

62頭

 

経営移譲

本人(洋子)就農。以前は町保育士

指導農業士(酪農・芝)

長男(泰明)就農。

成牛舎増築(605m2となる)

育成舎新築(240m2)

農業委員就任

家族経営協定 甲:母、乙:息子

汚水処理施設、堆肥舎設置

町村合併協議会委員就任

 


(7)自給飼料の生産と利用状況


 

飼料作物の生産状況(平成14年1月から12月)

使用

区分

飼料の

作付形態

地目

面積(a)

所有

区分

総収量

(t)

主な

利用形態

(採草の場合)

実面積

のべ

面積

採草

 

採草

イタリアンライグラス

 

ミレット

 

水田

水田

1,058a

 

1,058a

2,116a

 

1,058a

自己

借地

自己

借地

 

1番草:ラップサイレージ

2番草:ラップサイレージ

1番草:ラップサイレージ

 

3人組共同作業

 

 

.家畜排せつ物の利活用と環境保全対策


(1)家畜排せつ物の処理方法


・固液分離処理の概況 全て分離している。

 畜舎からバーンクリーナーで搬出されるふん尿を固液分離機で分離を行う。

・固形分の処理(堆肥化処理等)

 牛舎よりバーンクリーナーで搬出(敷料にはオガクズを利用)されるふん尿を固液分離機にかけ固形物・液に分離を行う。分離固形物はダンプトラックで堆肥舎へ運搬し、育成・乾乳牛舎から搬出されるふん尿、敷料と混ぜショベルローダーで切り返しを行う。

・液体(尿・汚水)の処理

 分離液は、汚水処理施設(連続式活性汚泥法)で処理を行う。処理水は希釈水として再利用し外には出していない。余剰汚泥の処理は、濾過槽(石、オガクズ)で再度処理を行う。濾過液は既存の尿だめに貯留し定期的にバキュームで抜き取り自家の芝畑等に散布

しており、良質の芝生産に役立っている。東伯町は芝の主要生産地でもあり、周辺の芝生産農家も注目しており今後、利用の可能性が大である。

 


(2)家畜排せつ物の利活用
  [1]固形分


自家利用100% 

堆肥舎にてローダーで切り返し(6ヶ月)ほ場還元。利用時期6〜7月、10月


  [2]液体分


 土壌還元 100%

 放流基準値以下に処理し、処理水は希釈水として再利用。余剰汚泥の濾過を行いその濾過液を芝畑等に還元(3ヵ月)


(3)評価と課題


 ・処理・利活用に関する評価

 堆肥舎の整備にあわせて汚水処理施設の整備も行っている。

 分離固形物の処理は、堆肥舎での切り返しという簡単な方法であるが、自給飼料畑への還元で全量を利用し良質の粗飼料生産をおこなっている。

 分離液の処理は、汚水処理施設(連続式活性汚泥法)で放流基準数値以下まで処理を行っている。処理水は芝畑等に全量還元され、良質の芝生産をおこなっている。

 堆肥処理・利用について、当経営は野積み、素掘りもなく地力増加に有効利用されている。

 ・課 題

 積雪の冬場の対応積雪が長時間になると濾過液の散布に苦労する。

 


(4)その他


  

  牛舎の入口には、プランタに植えられた花(ベゴニア、日々草、ベチュニア)が訪問者を出迎えてくれる。もちろん床土には、牛ふんが利用されている。定期的に散布されている汚水処理水の影響なのか、花の色が鮮明になり、長持ちしている。

 年間を通じて花が咲いているように努力されている。

 

4.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容

 


 

・地域の農業・畜産の仲間との共存のための青年農業活動

・地域循環型農業の確立(耕種農家との結びつき)

・遊休地の利用(転作田の有効活用)

・畜産への理解を深める活動(地域の子供達の見学受け入れ、消費者交流等)

・地産地消への取り組み(産直所での加工・販売活動等)

・地域のリーダーとしての担い手育成(指導農業士としての活動、新規就農希望者の研修受入れ等)

・地域活性化のための活動(他地域との交流会や地域イベントの開催等)

 

就農後、地域の生活改善グループ活動に参画し、牛乳グループ会長、町酪農女性部長を務めるとともに県女性農業士、町農業委員(町初の女性農業委員)、町村合併協議会委員を務める等地域農業発展のための活動に力を注ぎ、さらに借地777aに拡大して来ているがこれも利用権を設定する等耕種農家との連携も図っている。

また、京都生協、大学生の生産現場体験等を受け入れたり(2泊3日)、町国際交流活動による外国人教師受け入れ(2泊3日)、等事情が許す限り積極的に受け入れている。

さらに、規模拡大も一段落したことから研修生を受け入れ共に学びながら、酪農後継者対策に寄与する意向を持っている。

 

5.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み

 


長男(県立農業高校、帯広畜産大学)は既に就農している(平成9年)

本人と長男で家族経営協定締結(平成11年)

3戸による飼料生産の共同作業を通じ相互扶助の精神によって結束が固くこれが安心して酪農経営に取り組める体制となり、3戸とも後継者が就農している。 

 

6.今後の目指す方向と課題

 


(経営者自身の考える事項)

 BSE発生により、乳子牛・廃牛価格は下落し本来の搾乳による所得の増大に一層の力を入れなければならない。

しかし、現状をみれば生産コストの削減は必要課題であるが、難題も多く、今後は転作田等の土地集積、芝圃場の飼料畑転換等による飼料基盤の確保、放牧利用等により規模に見合った生産基盤の確立に努めたい。

また、経営の基本的な考え方として家族でゆとりをもって飼える可能な限りの規模拡大志向は念頭にあり、将来的にはフリーストール、ロボット搾乳等省力化の為の投資は惜しまない方針である。無論それには、パソコン処理による経営管理数値を十分に活かした無理のない経営計画の樹立を目指したいと考えている。

なお、牛は自家育成を基本とし循環型農業の実践、家族でゆとりある酪農経営を目指すという従来からの経営理念を忘れず、安定した経営を息子に引き継ぎたい。

 

≪審査委員会の評価≫

酪農は全くの素人がパソコンによる経営管理を試みながら規模拡大を実現した。それも省力化、環境対策に重点を置いた投資で、ゆとりある経営、循環型農業を実践している。つなぎ方式での60頭規模は県下で1番大きく、母子で家族経営協定を締結する等後継者への配慮も伺える。

また、これだけの規模でありながら就農当初から積極的に地域での活動に参加し、地域の酪農家の女性はもとより県内農業者に大きな勇気を与えており、これらの点を高く評価した。

なお、生産技術、収益性が若干低い(いずれも前年を下まわっている)が、これはBSE発生による廃牛処分の遅れが影響しているためと思われる。

 

7.事例の特徴や活動を示す写真

 


          

 

経営の実績・技術等の概要

 [1]経営実績


 <<経営実績>> 

   

14年1月〜14年12月

経営実績

畜産会指標

経営の概要

労働力員数
(畜産)

     

2.3

2

     

0

 

経産牛平均飼養頭数

64.4

40

飼料生産用地延べ面積

1,058

a

600

a

年間総産乳量

560,840.1

s

342,000

s

年間総販売乳量

 

s

 

s

年間子牛・育成牛販売頭数

40

 

年間肥育牛販売頭数

0

 

 

所 得 率

21.0

21

生 産 性

牛乳生産

経産牛1頭当たり年間産乳量

8,708

s

8,550

s

平均分娩間隔

14.7

ヵ月

13

ヵ月

受胎に要した種付回数

 

 

牛乳1kg当たり平均価格

97.1

97.6

乳 脂 率

3.8

3.9

無脂乳固形分率

8.8

8.7

体 細 胞 数

19.8

万個/ml

 

万個/ml

細 菌 数

5.1

万個/ml

 

万個/ml

粗飼料

経産牛1頭当たり飼料生産延べ面積

16.4

a

15

a

借入地依存率

68

 

飼料TDN自給率

 

 

乳飼比(育成・その他含む)

40.2

33

経産牛1頭当たり投下労働時間

78.6

時間

127

時間

 


 [2]技術等の概要


 <<技術等の概要>>

1.経営類型 耕地依存型

2.畜舎様式 つなぎ方式

3.搾乳方式 パイプライン方式

4.自家配の実施(TMRの実施)

5.共同育成牧場の活用の有無 あり

6.採食を伴う放牧の実施 なし

7.協業・共同作業の実施 飼料生産

8.施設・機器具等共同利用の実施 なし

9.牛郡検定事業への参加の有無 全頭参加 

10.生産部門以外の取り組み なし

11.ETの活用 あり

12.F1の活用 あり

13.肥育部門の実施 なし